居酒屋や家庭で長年議論されるのが、「かつおのたたきには生姜とわさび、どちらを合わせるべきか」という疑問です。刺身にはわさびが定番ですが、たたきにおいては生姜が添えられるケースが多く見られます。この使い分けには、調理科学と季節のサイクルに基づく明確な根拠があります。
結論から述べると、「春の初鰹(さっぱりした赤身)には生姜」「秋の戻り鰹(濃厚な脂)にはわさびとにんにく」を合わせるのが最も理にかなったアプローチです。
春から初夏にかけて北上する「初鰹」は、脂質含有量が1〜2%前後と非常に低く、引き締まった赤身の爽快な酸味と鉄分が特徴です。脂が少ない分、魚の血の香りがストレートに鼻へ抜けるため、ジンゲロールによる強い脱臭作用を持つ生姜が抜群の相性を誇ります。ポン酢の酸味とおろし生姜の辛味が、初鰹のみずみずしさを際立たせます。
一方、秋に親潮に乗って南下してくる「戻り鰹」は、脂質が10%以上に達し「トロかつお」とも称されます。脂が分厚い魚に対して生姜だけを合わせると、脂の甘みに生姜が負けてしまうことがあります。ここで威力を発揮するのが本わさびです。わさびの辛味成分アリルイソチオシアネートは脂溶性であるため、魚の脂に溶け込んでツンとした刺激が和らぎ、上質な脂の甘みとコクだけを浮き彫りにします。濃厚な戻り鰹には、すりおろしたてのわさびをたっぷり乗せ、醤油または濃口ポン酢で食すのが美食家の間で愛される隠れた名法です。