ネット上の情報や古い飼育本には、「犬が草を食べるのは野生時代のオオカミの名残であり、毛玉や胃のゴミを吐き出すための正常な本能だから心配ない」といった記述が散見されます。しかし、近年の家庭犬における動物行動医学では、この「本能デトックス論」を無批判に信じ込むことへの警鐘が鳴らされています。
確かにオオカミや野生のイヌ科動物は、獲物の胃内容物に含まれる植物質を摂取したり、消化できない骨や毛を草と一緒に吐き出したりする習性を持っています。しかし、完全に栄養バランスの整った総合栄養食(プレミアムドッグフード等)を毎日食べている現代の室内飼育犬が、頻繁に草を貪り食う行為を「単なる本能」で片付けるのは危険です。
見落とされがちな盲点として、飼い主とのコミュニケーションにおける強化行動(構ってほしいストレス)があります。散歩中に草を口にくわえた瞬間、飼い主が「あーっ!ダメダメ!」と慌てて駆け寄ったり、大声で話しかけたりした経験はないでしょうか。犬の心理としては、「草をくわえると大好きな飼い主が自分に全神経を集中してくれる」と学習し、注目を集めるためのアピールとして草食行動を繰り返すようになるケースが多々あります。
さらに、毎日の散歩コースが単調で運動量が不足していることによる「退屈しのぎ」や、留守番時の分離不安からくる常同障害(強迫的な草むしり食い)として現れている場合もあり、身体面だけでなく環境面・心理面からのアプローチが不可欠です。