丸山真男の学問的探求を理解する上で、東京帝国大学(現・東京大学)法学部教授としての華々しい経歴だけでなく、苛烈な戦争体験と戦後論壇での苦闘を見落とすことはできません。
1946年に発表した衝撃の論文『超国家主義の論理と心理』において、丸山は旧日本軍や大日本帝国が抱えていた「無責任の体系」を徹底解剖しました。トップたる天皇から末端の兵士に至るまで、誰も自発的な意思決定の主体たらず、「上からの権威の委託」と「既成事実への屈服」によって国家が破滅へ突き進んだメカニズムを暴いたのです。
そして後年の丸山は、日本人の精神構造をより深層から説明するため、「古層(こそう)」あるいは「執拗低音(バッソ・オスティナート)」という概念へと到達します。いくら外来の先進思想(儒教、近代合理主義、自由主義など)を輸入しても、古くから日本人の無意識に沈殿する「次々に成り行く勢い(状況の推移に身を任せる感覚)」という通奏低音によって、外来思想の鋭い刃が骨抜きにされ、無害化されてしまう構造を解き明かしました。