『花子とアン』において、町田啓太が演じた村岡郁弥は、ヒロイン・花子(吉高由里子)の夫となる村岡英治(鈴木亮平)の実弟です。イギリスで最先端の印刷技術を学び、帰国後は父の経営する村岡印刷で技師として活躍。進取の気性に富み、英国紳士然としたハイカラなスーツを着こなし、気品ある英語交じりの軽妙なトークで周囲を明るく照らす、まさに当時のモダンボーイ(モボ)を象徴するキャラクターでした。
しかし、その眩しい青春は、第22週「波乱の東京」で唐突かつ残酷に断ち切られます。時代は1923(大正12)年9月1日、東京を未曾有の災厄が襲いました。関東大震災です。
郁弥はその日、密かに想いを寄せ続けてきた花子の妹・かよ(黒木華)が働く銀座のカフェー「ライオン」を訪れていました。英国仕込みの指輪を胸ポケットに忍ばせ、かよへ正式にプロポーズを決意した運命の昼下がり。郁弥がまさに想いを告げようと踏み出した午前11時58分、マグニチュード7.9の激震が帝都を直撃しました。
揺れの中、郁弥は崩れ落ちる調度品や建物の下敷きとなり、店内にいた人々を庇う形となりました。直撃を受けた銀座の建物は無残に倒壊。郁弥は瓦礫に埋もれ、震災による家屋倒壊に伴う圧死により、20代半ばの若さで命を落とします。愛する女性に指輪を渡すことすら叶わず、冷たい遺体となって家族と無言の再会を果たす展開は、劇中屈指のトラウマシーンとして視聴者の脳裏に焼き付くことになりました。