日高のり子氏のキャリアにおいて、アニメファン以外にもその声が最も深く浸透している領域が「機械・ガイダンス音声」です。「実はあの声も日高さんだったのか」と後から知って驚愕するユーザーが後を絶ちません。
代表的な事例が、パナソニック製のETC車載器およびカーナビゲーションの案内音声です。車に乗ってエンジンをかけた瞬間、
「ポーン、ETCカードが挿入されました」
「カード有効期限は、〇年〇月です」
と流れるあのクリアで聞き取りやすいアナウンス。高速道路の料金所を通過するたびに耳にする音声の主こそ、日高氏本人です。カーエレクトロニクス機器の音声には、走行中のロードノイズにかき消されず、かつ運転者の集中を妨げない絶対的な明瞭度と安心感が要求されます。日高氏の持つ高周波成分の整った声質は、音響工学の観点からも極めて優れた特性を備えていたことが、長年にわたる採用の背景にあります。
そして、この「明瞭な案内音声」のパブリックイメージを痛烈なディストピア描写へと反転させたのが、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』に登場する特殊拳銃ドミネーターのシステムボイスです。
「犯罪係数 382。執行対象です。セーフティを解除します」
人間の精神を数値化して裁く銃器から放たれる、感情を一切交えない滑らかなガイダンス。ETC音声と同じ声優が、人間の生死を淡々とジャッジする殺人兵器の声を担当するというアイロニーは、アニメファンに強烈な戦慄とカタルシスを与えました。玩具メーカーから発売されたフルスケールの発光・変形トイ「エレクトロニックプロップ ドミネーター」にも日高氏の録り下ろしボイスが完全収録され、即日完売を記録するなど、キャラクターボイスの枠を超えた社会現象となっています。