文字列で絵を表現するアスキーアートにおいて、「吐血」というモチーフが爆発的な広がりを見せた背景には、日本の漫画・アニメ文化特有の文法が存在します。古くは『北斗の拳』や『聖闘士星矢』、あるいは車田正美作品に見られる「強烈な打撃を受けた戦士が宙を舞いながら血を噴き出す」ダイナミックな描写が、デジタルテキストの創成期にインターネットユーザーの脳裏へ強烈に刷り込まれていました。
文字コード文化の黎明期、パソコン通信から「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」へと移行した2000年代初頭、掲示板の住人たちは「・∵.」という記号の組み合わせで飛び散る血飛沫を表現し始めます。当時を知る古参ユーザーの手記やネットログを辿ると、発祥の地となったのはニュース速報板やガイドライン板などの過激な議論空間でした。論破された側のショックや、予想外の悲報に打ちのめされた心理状態を「口から血を吐いて倒れる姿」に託したのがすべての始まりです。
なかでも「2ch名作吐血AA」として語り継がれているのが、「やる夫吐血AA」や「モナー」「ギコ猫」が血を吹き出す連作です。特に「やる夫」が自信満々に語った直後、現実を突きつけられて大量出血するフォーマットは、自虐ネタの最高峰として数千回以上にわたり改変され続けました。また、突如として放たれる「ゲフッAAコピペ」は、予期せぬ精神的ダメージへの反射的な悲鳴として、テキストコミュニケーションにおける強力なツッコミ文化を築き上げたのです。