DELTA9KIDというラッパーを語る上で避けて通れないのが、あまりにも壮絶なバックボーンと、過去に経験した服役生活の真実です。
埼玉県北部、熊谷や深谷といった北関東のストリートで少年期を過ごした彼は、幼少期から非行に手を染め、暴走族や不良コミュニティの中で育ちました。その青春の決定的な転換点となったのが、2009年(当時19〜20歳前後)に発生した金庫破り事件です。深夜の事務所に侵入し金庫を強奪した彼らは、警察車両の追跡を受け激しいカーチェイスを繰り広げました。
その逃走劇の最中、車外へ逃れようとした同乗の仲間であり、クルーの最重要人物であった1.0.4(トシキ / 敏明さん・当時19歳)が命を落とすという痛ましい事故が発生します。最愛の仲間を目の前で失ったこの悲劇は、DELTA9KIDとBADSAIKUSHの心に消えることのない深い傷と、「彼の生きた証を音楽で背負い続ける」という強烈な業(カルマ)を刻み込みました。舐達麻の代表曲である『Float on』や『100MILLIONS』をはじめとする数々の楽曲に、今なお彼の名前が祈りのように刻まれているのはこのためです。
事件後、DELTA9KIDは逮捕され、実刑判決を受けて刑務所へ収監されました。服役期間中、彼は獄中で膨大な本を読み、ノートにリリックを書き殴りながら、自らの内省とラップスキルの研鑽に励んだと当時の手記やインタビューで述懐されています。
彼が刑務所を出所したのは2018年の春。出所直後、すでにBADSAIKUSHらが立ち上げていたレーベル「APHRODITE GANG HOLDINGS」に合流し、出所からわずか数カ月で歴史的名盤となる1stフルアルバム『GODBREATH BUDDHACESS』(2019年)の制作を本格化させました。服役というブランクを感じさせるどころか、極限の孤独と自省を経て研ぎ澄まされた低音ボイスは、日本のラップシーンに激震を走らせることになります。
なお、2021年4月には大麻取締法違反(所持)の疑いで警視庁に再び逮捕され、世間を騒がせました。しかし、捜査機関による厳格な捜査の結果、嫌疑不十分等により不起訴処分となり釈放されています。この一連の騒動時にも、過剰な弁明を行わず沈黙を守り通した姿勢が、ストリートのリアルを尊ぶヘッズから逆に厚い信頼を集める要因となりました。