ローズマリーの挿し木を成功させる最大の鍵は、ずばり「気温」にあります。植物細胞がカルスを形成し、発根を促す植物ホルモン(オーキシン)が活発に分泌される至適温度は18度から23度の範囲内とされています。この生理的条件を満たす季節こそが、一年のうちで「春」と「秋」の限られた期間です。
春の適期は4月中旬から6月上旬(地域差あり)。冬の休眠から目覚めた親株が勢いよく新芽を展開させるこの時期は、枝にとっても体力が最も充実しているタイミングです。梅雨入り前の温暖かつ適度な湿度がある時期は、葉からの乾燥を防ぎやすく、挿し木の黄金期と言えます。
もうひとつの好期が、真夏の猛暑が落ち着いた9月下旬から10月下旬の秋期です。この時期のメリットは、秋雨前線による適度な空気湿度があり、冬の休眠に入るまでにしっかりと根を張らせることができる点にあります。秋に発根させた苗は、冬の寒さによって地上部の徒長が抑えられ、翌春には根群が発達した屈強な株へと急成長します。
逆に、絶対に避けるべきなのが「真夏(7〜8月)」と「厳冬期(12〜2月)」です。真夏の直射日光と30度を超える猛暑は、培地や水の中で細菌を大繁殖させ、挿し穂を一晩で黒変・窒息させます。また、5度を下回る厳冬期は植物の活動そのものが止まるため、発根組織が一切動かないまま切り口から徐々に枯損していきます。時期の選定を誤るだけで、どれほど丁寧な手入れを行っても成功率は10%未満にまで落ち込むのが動かしがたい現実です。