ネット上の掲示板やSNS、知恵袋を覗くと、自施設実習に取り組む受講生の悲痛な叫びが溢れています。「同僚に実習の計画を説明したら『現場の忙しさを分かっていない』と冷たい目で見られた」「夜勤明けでお願いした記録を誰も書いてくれない」「一人で空回りして職場の人間関係がギクシャクした」といった人間関係の摩擦です。
この摩擦は受講生の熱意が足りないからではなく、組織心理学における「心理的安全性」の欠如と、現状維持を好む集団心理によって引き起こされます。業務量に追われる介護現場において、一人のスタッフが新しいケア手法を持ち込むことは、他の職員にとって「仕事が増える脅威」や「これまでの自分たちのケアを否定された」という認知バイアスを生み出しやすいのです。
英国の社会心理学者トム・キットウッドが提唱した「パーソン・センタード・ケア(その人を中心としたケア)」を現場に定着させるためには、正しい技術論を振りかざすだけでは不十分です。「正論の暴力」で同僚を追い詰めるのではなく、以下のステップでチームのアライ(協力者)を増やしていくアプローチが効果を発揮します。
まず、最初からフロア全体を巻き込もうとせず、現場で発言力のあるベテラン職員や、想いに共感してくれる後輩1名に絞って「味方」を作ることです。「実は研修の課題で本当に困っていて、〇〇さんの知恵を貸してほしい」と相談を持ちかけることで、相手の自尊心を尊重しながら巻き込みます。
次に、実践による「現場の負担軽減」を数値や事実で見せることです。「B様が夕方に不穏にならなくなったことで、16時〜17時のコール対応が1日平均3回減少した」という客観的事実が共有されれば、最初は冷ややかだった同僚も「この取り組みは自分たちの業務を楽にする」と理解し、自発的な協力体制へと変化していきます。レポートには、こうした「職員側の葛藤と、それを乗り越えた対話のプロセス」を包み隠さず書き記すことが、極めて高い評価につながるのです。