映画『男たちの大和/YAMATO』が持つ圧倒的なリアリズムは、単なるフィクションの脚本から生まれたものではありません。作家・辺見じゅん氏が戦艦大和の生存者や遺族を全国津々浦々に訪ね歩き、丹念に紡ぎ上げたノンフィクション『決定版 男たちの大和』が原作となっています。公式記録や戦史叢書では数字として処理されてしまいがちな兵士一人ひとりの息遣いや葛藤が、克明な証言としてスクリーンに刻み込まれているのです。
劇中で描かれた昭和20年(1945年)4月7日の坊ノ岬沖海戦は、太平洋戦争末期、制空権を完全に失った海域へ航空機の援護なしで突入した「天一号作戦(海上特攻)」でした。米軍機数百機による執拗な波状攻撃に晒され、大和は左舷に魚雷・爆弾の直撃を多数受けて午後2時23分に大爆発を起こし沈没。乗組員3,332名のうち、戦死者は実に3,056名に達し、生還できたのはわずか276名(生存率約8.2%)という壊滅的な消耗戦でした。
劇中で強烈な印象を残す下士官たちにも、明確な実在モデルが存在します。反町隆史が演じた森脇庄八主計兵曹長は、実在の烹炊所(調理室)責任者です。物資が困窮し死期が迫るなか、「最後の出撃の前に、若い兵士たちに腹いっぱい白米を食べさせたい」とおにぎりを握り続けたエピソードは、生存者の手記に記された偽らざる真実です。また、中村獅童が鬼気迫る形相で演じた内田守兵曹長は、大和の機銃員として戦い、負傷しながらも苛烈な戦場を生き抜いた実在の兵士たちの面影を宿した人物造形となっています。
さらに、松山ケンイチが体現した15歳の特別年少兵・神尾克己の背後には、「死に方」を教えられながらも「生き残ってしまった」多くの少年兵たちの重い十字架が存在します。戦後、彼らが背負い続けた罪悪感(サバイバーズ・ギルト)の告白こそが、本作を単なる戦争アクションではなく、深い鎮魂劇へと昇華させた核泉といえます。