常磐道あおり運転事件の主犯である宮崎文夫と、犯人蔵匿・隠避の罪で後に逮捕・有罪判決を受けた喜本奈津子受刑者。この2人が全国指名手配される前哨戦として、ネット上では「ガラケーを構えていた同乗者の女は誰だ」という凄まじい犯人捜し(特定作業)が過熱していました。その標的となってしまったのが、都内でIT関連会社を経営し、当時インスタグラムで1万人以上のフォロワーを持っていた笹原えり(さはらえり)さんでした。
なぜ、事件現場に一度も足を踏み入れておらず、被疑者らと接点すらなかった彼女が、突如として凶悪事件の共犯者に仕立て上げられてしまったのでしょうか。当時の投稿履歴や検証記録を紐解くと、そこにはあまりに稚拙で短絡的な3つの「こじつけ」が存在していました。
第一の理由は、容疑者のSNSフォロー欄に存在したという偶然です。逃走中だった宮崎文夫のアカウントをネットユーザーが調査した際、宮崎がフォローしていたアカウントの中に、経営者として活発に情報発信を行っていた笹原さんのアカウントが含まれていました。不特定多数とつながるSNSにおいて、一方的にフォローされていたに過ぎない事実が、「知人=同乗者」という短絡的な飛躍を生む発火点となったのです。
第二の理由は、写真の外見的特徴に対する悪質な牽強付会(こじつけ)でした。笹原さんが自身のインスタグラムに投稿していた過去の写真の中で、たまたま「大きなサングラスをかけていた姿」や「帽子・服装のテイスト」が、公開されたドライブレコーダー映像に映るガラケー女の輪郭と似ていると騒ぎ立てられました。ネットの「特定屋」と呼ばれる者たちは、複数枚の写真を並べて丸印を付け、「服装が一致」「サングラスの形状が完全に一致」と断定的なキャプションを添えて画像を拡散させました。
第三の理由は、「正義感」を装った拡散アルゴリズムの暴走です。「極悪非道なあおり運転犯を早く捕まえろ」「女性の身元を特定して警察に通報せよ」という大義名分を掲げたインフルエンサーやまとめサイトが、裏付け取材を一切行わないまま笹原さんの本名、顔写真、会社ホームページのURLを転載しました。「真偽は不明ですが情報提供」「早く自首してください」といった言葉を添えることで、自らの法的責任を回避できると錯覚した一般ユーザー数万人が、瞬く間にリツイート(現リポスト)の渦に加担していったのです。