三郎丸蒸留所を語るうえで欠かせない最大の技術革新が、2019年に導入された世界初の鋳造製ポットスチル「ZEMON(ゼモン)」です。地元・富山県高岡市の老舗梵鐘メーカーである株式会社老子製作所と共同開発したこの蒸留器は、世界の蒸留酒業界に大きな衝撃を与えました。
従来のポットスチルは板銅を叩いて成型する鍛造(たんぞう)が一般的でしたが、ZEMONは型に溶かした金属を流し込む「鋳造(ちゅうぞう)」技術を採用しています。この革新的な蒸留器がもたらすメリットは多岐にわたります。
- 銅・錫(スズ)合金による酒質の向上:ZEMONは銅だけでなく錫を約10%含む合金で造られています。古くから酒器に用いられてきた錫の触媒効果により、アルコールの角が取れ、極めてまろやかで雑味のないクリアな蒸留液が生み出されます。
- 長寿命と省エネルギー性能:鋳造による肉厚な構造は高い耐久性を誇り、蒸留時の熱効率を飛躍的に向上させ、二酸化炭素排出量の削減にも寄与しています。
- パーツ交換による持続可能性:摩耗しやすいパーツを分割して鋳造・交換できるため、従来のポットスチルのように全体を丸ごと作り直す必要がありません。
このZEMONによって生み出される三郎丸のニューポット(蒸留したての原酒)の特徴は、ヘビリーピーテッド由来の強烈な燻煙香を持ちながらも、舌触りが驚くほどクリーミーで、奥に完熟したフルーツのような甘やかなエステル香が感じられる点にあります。このクリーンかつ力強いニューポットこそが、長期間の樽熟成を経てもブレない三郎丸ウイスキーの骨格を形成しています。