弔問客や知人から「お悔やみ申し上げます」と言われた際、反射的に「ありがとうございます」とだけ答えてしまい、後から「不幸に対してお礼を言うのはおかしいのではないか」と思い悩む遺族は後を絶ちません。結論から言えば、相手の「弔意(慰めの気持ち)」に対して感謝すること自体は不作法ではありません。しかし、「不幸を歓迎している」かのような誤解を避けるため、単に「ありがとうございます」と言い放つのではなく、「お心遣いありがとうございます」「生前はお世話になり、ありがとうございました」と言葉を補うのが適切な作法です。
一方で、遺族側が無意識に使ってしまいがちな決定的なNG表現が存在します。代表的なのが、故人が高齢であった場合に遺族自ら「大往生でしたから」「天寿を全うしましたので」と口にしてしまうケースです。これらは本来、周囲が遺族を慰めるために用いる言葉であり、見送る側の遺族が発すると「早く亡くなって清々した」「悲しんでいない」といった不遜なニュアンスを与えかねません。遺族側は「おかげさまで穏やかな最期を迎えられました」といった謙虚な表現に留めるのが鉄則です。
さらに、冠婚葬祭全般でタブーとされる「忌み言葉」への配慮も欠かせません。不幸が重なることを連想させる「重ね重ね」「たびたび」「ますます」「くれぐれも」、あるいは直接的な死生を連想させる「再び」「続いて」といった言葉は、返答の挨拶やお礼状において厳格に避けるべきとされています。愛知・東京などで活動する複数の葬祭ディレクターへの取材でも、「遺族側がパニックになり、弔問客への挨拶で重ね言葉を連発して恥をかいたと悔やむケースは非常に多い」との証言が寄せられています。思考力が著しく低下する有事だからこそ、頭で考えずに口から出る定型フレーズをあらかじめ把握しておくことが、精神的な防波堤となります。