この店を語る上で絶対に外せない主役が、青々とした野趣あふれる「せりそば」だ。丼を覆い尽くすセリの鮮烈な緑は、一度見たら脳裏から離れない。例年、晩秋の11月頃から入荷が始まり、翌年の春先(4月から5月上旬頃)まで提供される季節限定の味である。
なかでも極上とされるのが、真冬の寒さが最も厳しくなる12月から2月にかけて届く「根っこ付き」のセリだ。泥を極限まで丁寧に洗い落とした純白の根は、野性味あふれる芳香とシャキシャキとした力強い歯ごたえを宿している。熱々の甘辛いツユにセリを沈めると、熱によって爽快な青い香りが一気に立ち上る。シャキッとした茎、ふくよかな葉、そして大地そのものの滋味を凝縮した根。ツユをまとった細打ちの蕎麦と一緒にすすり上げれば、口いっぱいに広がる鮮烈なコントラストに思わず息をのむ。