日本中を驚嘆させた出来事は、2010年秋に奈良県警が実施した嘱託警察犬審査会で起きました。並み居る大型犬たちに混じり、エントリーシートに名を連ねたのは体重約3キロ、当時7歳だったロングコートチワワのメス「桃ちゃん」でした。周囲のハンドラーや見学者からは当初、「記念受験ではないか」「マスコット枠の話題作りだろう」といった懐疑的な視線も向けられていました。
しかし、試験が始まるとその場の空気は一変します。桃ちゃんが出場したのは、障害物を越えて犯人に飛びかかる防圧部門ではなく、行方不明者や被災者を捜し出す「捜索救助の部」でした。地面に伏せて集中力を高めた桃ちゃんは、指導手の指示に従い、規定エリア内に残されたわずかな靴下や帽子の匂いを正確に追跡。約100平方メートルの捜索エリア内に隠された目標をわずか数分で特定し、要救助者に見立てた人物の前でピタリと止まり、軽快に吠えて発見を知らせたのです。
合格率は例年約3割という厳しい関門を堂々の成績で突破し、2011年1月から晴れて「奈良県警嘱託警察犬」として正式委嘱を受けるに至りました。指導手であるドッグトレーナーとの二人三脚による地道な服従訓練と、本来チワワが持ち合わせている警戒心・集中力をプラスの探索意欲へと転換させた育成法が結実した瞬間でした。