「私に天使を見せてみろ、そうすれば天使を描いてみせよう」——この痛烈な言葉に象徴されるように、ギュスターヴ・クールベは古典的な神話画や理想化された歴史画を激しく批判し、ありのままの現実をカンバスに焼き付ける写実主義(リアリズム)の旗手として画壇に嵐を巻き起こしました。そのクールベが1866年、極めて親密かつ衝撃的な筆致で仕上げたのが『世界の起源』です。では、なぜこのような絵画が描かれたのでしょうか。
制作を依頼した人物は、当時パリの社交界で贅沢の限りを尽くしていたオスマン帝国の元外交官、ハリル・ベイ(ハリル・シェリフ・パシャ)でした。美術収集家として知られたハリル・ベイは、ドミニク・アングルの名作『トルコ風呂』をはじめとする極めて官能的な絵画のコレクションを私邸の奥に構築していました。彼が求めたのは、サロンで一般大衆に見せるための神話化されたヴィーナスではなく、個人的な秘密のキャビネットに飾るための、血の通った生身の女性の姿だったのです。
当時、ルネサンス以来のアカデミズム絵画における裸婦は、体毛を削ぎ落とし、肌の質感を陶器のように均一化した「神話の隠れ蓑」をまとった存在でした。しかし、クールベはそうした欺瞞を真っ向から拒絶しました。肌の赤み、布のしわ、そして生々しい陰影をそのまま描写したのです。『世界の起源』という壮大な題名は、すべての人間が母胎から生まれ出るという冷徹な生物学的真実を突きつけるものであり、キリスト教的な天地創造の神話に対する、徹底した無神論的・写実主義的アンチテーゼでもありました。