長澤まさみのキャリアにおける最大のターニングポイントとして語り継がれるのが、2011年公開の映画『モテキ』(大根仁監督)です。それまで背負い続けてきた「健康的な優等生」「悲劇の純情ヒロイン」という重圧をかなぐり捨て、主人公・藤本幸世(森山未來)を翻弄する雑誌編集者・松尾みゆきを演じきりました。胸元を大胆に強調した衣装、無防備な笑顔で胸を触らせるシーン、泥酔しての濃厚なキスシーンなど、スクリーンいっぱいに放たれた強烈なフェロモンは観客に衝撃を与えました。
当時の映画専門誌やメイキングインタビューにおいて、大根仁監督は「長澤まさみという女優の中に眠っていた、本能的で野性的な可愛らしさと色気を引きずり出したかった」と語っています。長澤自身も、20代前半特有の停滞感や「求められる清純派像」に対する葛藤を抱えていた時期であり、本作のオファーを自ら前向きに捉えて体当たりで臨んだ経緯が明かされています。受け身のアイドル女優から、自らの身体性を武器にして観客を惹きつける表現者へと覚醒した瞬間でした。
その大胆な肉体表現の頂点となったのが、2017年のミュージカル舞台『キャバレー』(松尾スズキ演出)です。長澤が演じたのは、1930年代のベルリンで刹那的に生きる歌姫サリー・ボウルズ。黒のビスチェやガーターベルト、胸元や太ももを惜しげもなく露出したボンデージ風の扇情的な衣装でステージに立ち、激しいダンスと退廃的な色気を堂々と披露しました。
一部のメディアでは上演前から衣装の過激さばかりが取り沙汰されましたが、実際の劇場空間で観客が目撃したのは、安易な露出などではなく、役柄の切実な悲哀と生き様を肉体全体で叫ぶ鬼気迫る姿でした。舞台関係者の証言によると、長澤は連日過酷なボイストレーニングと体幹トレーニングを重ね、露出度の高い衣装に一切負けない研ぎ澄まされた肉体を作り上げて稽古場に入ったとされています。この舞台の成功により、彼女の「色気」は単なる観賞用の性的魅力ではなく、作品を牽引する強靭な表現力であると演劇界からも絶賛を浴びることとなりました。