企業が伝統的な「Made in China」を避け、あえてPRC表記を使う理由の根底にあるのは、消費者の購買心理に深く作用する「原産国効果(カントリー・オブ・オリジン効果)」のコントロールです。マーケティング心理学において、製品の品質や機能が客観的に同等であっても、消費者は原産国のイメージによって無意識に評価を下すバイアスを持っています。
日本国内において、1990年代から2000年代にかけて流通した一部の低価格な中国製品による品質不良トラブルや安全性への懸念は、消費者の潜在意識に「中国製=安かろう悪かろう」という根強いステレオタイプを植え付けました。企画やデザインを日本や欧米で行い、高度な品質管理基準をクリアした工場で製造していたとしても、「Made in China」の文字列を見ただけで購買を躊躇する消費層が一定割合存在したのです。
そこで企業側が見出した解決策が、正式な国名略称でありながら一般的な認知度が低かった「PRC」への置き換えでした。一見すると北欧や西欧の未知の小国、あるいは国際規格の認証コードのように見える文字列を採用することで、ネガティブな先入観による即座の購入離脱を防ぐ狙いがありました。当初はイタリアやフランスの高級アパレルブランドが、現地の厳しいコスト高を回避して中国工場で委託生産する際に採用し始め、その後、家電や生活雑貨のOEMメーカーへと急速に拡大していった経緯があります。