日本全国の多くの河川では、水産資源保護を目的として毎年3月1日(一部寒冷地では3月下旬〜4月1日)前後に「渓流解禁日」を迎えます。冬の禁漁期を終えた解禁当初、雪解け水が流れる早春の山女魚は「サビ」と呼ばれる黒ずんだ越冬色を残しており、運動量も少ないため身は引き締まっているものの脂は控えめです。
山女魚が真の美食へと昇華する一番の「旬の時期」は、水温が上昇し新緑が眩しくなる5月中旬から7月上旬の初夏です。水生昆虫(カゲロウやトビケラ)の羽化が活発化し、それらを飽食した個体は丸々と太り、魚体には艶やかな銀色の輝きが戻ります。この時期の身質は、川魚特有の泥臭さが一切なく、清流のせせらぎを思わせる爽やかな芳香と適度な甘みを帯びた脂が絶妙に調和します。
SNSや釣りコミュニティの生の声を見ても、現場の熱量は初夏に最高潮へと達します。長年渓流に通い詰めるベテラン釣り師は、自らの手記で次のように語っています。
「3月の雪中釣行で手にする1尾の尊さも格別だが、新緑が萌える初夏の山女魚は別物だ。腹を裂くと黄色がかった上質な脂が包丁に付き、塩焼きにすると皮の下からジュワッと脂が吹き出す。この季節の山女魚を一度味わうと、都会の喧騒を忘れて川へ向かわずにはいられなくなる」(群馬県・利根川水系に通う50代釣り人の手記より)
秋(9月以降)になると産卵を控えた「落ちヤマメ」となり、オスは鼻が曲がり勇猛な「婚姻色」を纏います。風情はあるものの、栄養が卵や白子に取られるため、食味という観点からは初夏こそが至高のタイミングといえます。