インターネット上の掲示板やSNSを開くと、「今朝ガクッと体温が下がったので、今日が排卵日に違いありません」「最低体温日を見逃してしまい、今周期は失敗したかも」という切実な投稿が後を絶ちません。しかし、日本産科婦人科学会などの臨床データおよび複数の追跡調査が示す最低体温日の真相は、巷のイメージとは大きく乖離しています。
超音波断層法による卵胞破裂(排卵)の瞬間と基礎体温の関連を調べた複数の臨床研究によると、体温が最も下がった日に排卵が確認された割合はわずか20〜25%前後に留まります。残りの大半は「最低体温日の前日」や「体温が上昇し始めた初日」、さらには「完全に高温期へ移行した途中」に排卵が起きているケースが確認されているのです。
にもかかわらず、「最低体温日=排卵日」という図式が信じ込まれてきた背景には、昭和から平成初期にかけて普及した入門用妊活ブックなどの極度に単純化された解説図があります。体温が最低になったタイミングを確認してから性交渉を持とうとすると、多くの場合ですでに卵子は寿命を迎えているか、受精能を失いかけています。この数時間の遅れこそが、熱心にグラフを記録しているカップルほど陥りがちな「最大の落とし穴」と言えます。