ナミブ・ナウクルフト国立公園の最奥部に位置する「デッドフレイ(Dead Vlei=死の沼地・死の谷)」は、白くひび割れた石灰質の粘土層(クレイパン)の上に、黒くねじ曲がった無数の枯れ木が林立する異空間です。観光客が息を呑むこの景観の正体は、かつてこの地を潤していたツァウチャブ川の氾濫原の残骸にほかなりません。
地質調査および現地学術機関の記録によると、約900年前から1,000年前の気候変動に伴い、移動性の巨大砂丘群が川の流路を完全にせき止めました。水分供給を絶たれたキャメルソーン(アカシア・エリロバ)の木々は一斉に立ち枯れましたが、湿度が極限まで低いナミブ砂漠の気候下では、倒木を土に還す木材腐朽菌やバクテリアが生息できません。その結果、強烈な太陽光線によって黒く焼け焦げたようなミイラ状態のまま、約10世紀もの歳月を経て現在もなお倒れずに立ち続けているのです。
背後にそびえ立つ標高300メートル超の巨大砂丘「ビッグダディ」の燃えるような赤、粘土層の白、枯れ木の黒、そして抜けるような青空のコントラストは、偶然の地殻変動と極度の乾燥環境が奇跡的に重なり合って成立した、地球のタイムカプセルと呼ぶべき光景です。
もう一つの疑問である「砂漠が鮮烈な赤を帯びている理由」は、砂粒に含まれる微量な鉄分にあります。大西洋沿岸から内陸へと風で運ばれる数百万年の過程で、大気中の酸素によって砂の表面が酸化(サビ化)し、酸化鉄の被膜が形成されます。海岸付近の砂丘が淡い黄色であるのに対し、内陸のソーサスフライ周辺が濃い赤褐色をしているのは、それだけ砂粒が気の遠くなるような時間をかけて風化してきた証拠です。