競馬ファンの間で広く信じられている言説のひとつに、「欧州血統の種牡馬を付ければ凱旋門賞を勝てる」というものがあります。フランケルやガリレオ、シヤニといったサドラーズウェルズ系の血を導入すれば解決するという短絡的な見方ですが、これには重大な落とし穴が存在します。
現代の凱旋門賞歴代勝ち馬を精査すると、確かに強靭なスタミナを誇る血脈が中核を成しているものの、単なる重馬場巧者が勝っているわけではありません。近年の勝馬たちは、前半のスローペースで極限まで折り合いをつけ、ラスト4ハロンを11秒台前半で持続させる卓越したギアチェンジ能力を併せ持っています。重い芝を跳ね除けるパワーと、トップスピードを長く維持する巡航能力の両立こそが求められているのです。
日本国内の生産界は、馬場の超高速化とサンデーサイレンス系を中心とする「瞬発力特化型」の配合で世界随一の進化を遂げてきました。その結果、ジャパンカップやドバイ、香港では圧倒的な強さを誇る反面、ロンシャンのような泥濘で求められる「筋腱の強靭さ」「クッション値の低い地盤を蹴る推進力」は淘汰される方向に進んでいます。日本競馬の成功モデルそのものが、凱旋門賞の勝利条件とトレードオフの関係にあるという事実こそ、直視すべき最大の盲点です。