本作の最大の謎であり、読者の議論を呼び続けたのが「タコピーの原罪とは何か」という問いです。なぜ単なる善意の宇宙人が「原罪」という重い十字架を背負うことになったのでしょうか。
作中で示された真相は、極めて哲学的であり人間的です。タコピーの犯した罪、それは「相手の置かれた本当の痛みや背景を想像しようとせず、表面的な『おはなし』と便利道具だけで全てを解決できると思い込んだ無知と傲慢」に他なりませんでした。
ハッピー星の価値観では、どんな問題も「わらうこと」「おはなしすること」で解決できると信じ込まれていました。しかし、人間社会の苦悩はそんなに単純ではありません。タコピーはまりなが家庭で流していた血や涙を見ようとせず、しずかが抱えていた底知れぬ絶望の本質に踏み込もうともしませんでした。相手を理解したつもりになり、自分の正義を押し付けることこそが、少女たちを死に追いやった真因だったのです。
自らの罪の重さを真に理解したタコピーは、最後の決断を下します。母から持たされていた禁断の道具「ハッピーカメラ」の最後のフィルムを使い、「タコピー自身が存在しない、誰もタコピーの記憶を持たない2016年」へと世界を巻き戻すことでした。その代償として、タコピーは実体を失い、消滅することを選びます。
改変された最後の世界(最終回)において、タコピーはいません。しかし、タコピーの遺志のような微かな気配が、しずかとまりなの前に落とされます。二人は互いの家庭事情や憎しみを抱えたまま、教室で激しい口論と取っ組み合いの喧嘩を繰り広げます。道具に頼らず、大人の顔色を窺うでもなく、生身の感情をぶつけ合った結果、二人は「相手もまた、自分と同じように苦しんでいる一人の人間である」という事実を初めて認識します。
ラストシーン、二人は親友になるわけでも、家庭環境が劇的に好転するわけでもありません。しかし、擦りむいた傷を見せ合い、ほんの少し言葉を交わして別れる後ろ姿が描かれます。タコピーが消えた世界で初めて、少女たちは本当の意味での「会話」を始めたのです。これこそが、本作が提示した残酷で、しかし確かな「救いの意味」でした。