「風邪を誰かにうつしたら、自分の熱がスッと引いて楽になった」という体験談を耳にしたことがある人は多いはずです。しかし、結論から言えば医学的な根拠は一切ありません。ウイルスは他者に移動したからといって、体内のウイルスが消滅するわけではないからです。
この噂が広く信じられてきた背景には、免疫反応と潜伏期間のタイムラグがあります。風邪のウイルスに感染した場合、体内でウイルスが増殖して症状のピークを迎えるまでに数日を要します。一方で、看病してくれた家族や近くにいた同僚が感染した場合、その相手が発症するのは数日間の潜伏期間を経てからです。つまり、「自分の症状が治まり始めた頃に、相手が発症する」という現象が起き、あたかも病気が相手に移動して治ったように錯覚してしまうのが噂の真相です。
さらに厄介なのが、病気をうつす時期の始まりです。多くの呼吸器系ウイルスは、咳や発熱といった明確な症状が出る発症の1〜2日前からすでに体外へウイルスを排出しています。「症状がないから誰にもうつさない」という思い込みこそが、家庭や職場でのクラスターを引き起こす最大の落とし穴となっています。