私たちが感じる味は、「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「うま味」の5つに分類され、これらを舌の構造と5基本味の基礎と呼びます。舌の表面には「舌乳頭(ぜつにゅうとう)」と呼ばれる微小な突起が無数に存在し、その内部に味のセンサーである「味蕾(みらい)」が収まっています。
成人で約5,000〜7,000個あるといわれる味蕾の内部には味細胞が存在し、それぞれの味物質と結合する受容体を備えています。特に苦味を感知する受容体群「T2R(Taste 2 Receptor)」は、人体に約25種類も存在します。毒素や腐敗物は自然界において苦味を呈することが多く、人間は生命維持のために微量の苦味物質であっても鋭敏に察知できるよう、受容体を高度に進化させてきました。
では、なぜ「舌の奥が苦い」という体感がこれほど根強く残っているのでしょうか。その鍵を握るのが、舌の奥の付け根付近にV字型に並ぶ大型の突起「有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)」です。有郭乳頭は他の部位にある茸状乳頭や葉状乳頭に比べ、1個の乳頭に数百個もの味蕾を密集させて抱え込んでいます。咀嚼された食物が嚥下される直前、有郭乳頭の溝に溶け出した苦味成分が流れ込むことで、苦味受容体の分布の密度とあいまって、脳に強烈な苦味シグナルが送られます。つまり、「奥でしか感じない」のではなく、「喉を通る最後の関門として奥で最も強く感知する」というのが、舌の奥が苦い理由の科学的な真相です。