外部から見れば「なぜ逃げ出さなかったのか」「なぜ家族で結託して反撃しなかったのか」という疑問が真っ先に浮かびます。しかし、公判記録や生存者の手記から浮かび上がる犯行手口と洗脳のプロセスは、人間の防衛本能を完全に破壊する冷徹なシステムでした。
手口の第一段階は「日常の些細なクレームによる心理的揺さぶり」です。電車のドアにベビーカーが挟まったことへの猛抗議や、親族の葬儀での作法への難癖など、被害者側に何らかの「負い目」や「罪悪感」を植え付けることから始まります。「誠意を見せろ」「親族会議を開く」と称して相手の生活空間に上がり込み、連日連夜の怒号で相手を精神的に疲弊させます。
第二段階が「睡眠剥奪と孤立化」です。美代子元被告は被害者たちを一堂に集め、24時間体制で罵倒し続けました。数日間にわたって睡眠を与えられず、思考力が極度に低下した状態で「自白」や「謝罪文」を書かせ、借用書に署名させます。外部の知人や警察への連絡は厳禁とされ、電話や所持品はすべて没収されました。
第三段階が「親族間での暴力の連鎖と共犯関係の構築」です。美代子元被告自身は直接手を下さず、「お前が家族のために殴れ」「反省を行動で示せ」と指示し、親子・夫婦・兄弟の間で殴打させました。家族に手を上げさせた瞬間、被害者は「自分も加害者である」という強烈な罪悪感と共犯意識を植え付けられ、心理的逃げ場を完全に失っていったのです。