劇的な事件は起こらない。世界の破滅も、選ばれし者の覚醒もない。描かれるのは、どこにでもある商店街、変わりゆく季節の風、そしてすれ違う人々の小さな呼吸だ。『つばらつばら』の真骨頂は、見過ごされがちな日常の断片に宿る「美」の純粋な抽出にある。
会話の合間に挟まれる間(ま)や、陰影の深いコマ割り。登場人物たちは大声で叫ばない。ただ、ささやくように感情を漏らす。読者はそこに自分自身の過去を、あるいは失ってしまった穏やかな時間を重ね合わせる。消費のスピードが極限まで加速した現代において、本作が放つ「立ち止まる勇気」は、一種の救済として機能している。