一般的な離婚劇であれば、元夫婦の共演は芸能界のタブーとされ、キャスティングの場でも徹底して避けられるのが通例です。しかし、小泉今日子と永瀬正敏はそのステレオタイプを軽快に覆しました。
離婚から3年後の2007年には蜷川実花監督の映画『さくらん』で早くも同じ作品に名を連ね、さらに世間を驚かせたのが2011年公開の映画『毎日かあさん』での本格的な夫婦役共演でした。原作は漫画家・西原理恵子氏の自伝的漫画で、アルコール依存症の元戦場カメラマンである夫(鴨志田穣氏)と、彼を支えながらもぶつかり合う妻の姿を描いた名作です。
製作発表の際、小泉今日子は「この役は永瀬さんしかいないと思った」と語り、永瀬正敏もまた全幅の信頼を寄せてオファーを快諾しました。スクリーンに映し出された2人の掛け合いには、かつて実生活で9年間を共に過ごした者同士にしか出せない、生々しくも温かな呼吸が充満していました。この演技が評価され、小泉今日子は第85回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞など数々の賞を受賞。離婚という過去の痛みをクリエイティブな昇華へと導いたこの事例は、日本の芸能史上でも稀有なパートナーシップの成熟例として記憶されています。