映画館の暗闇の中で、彼の登場を待ってしまう瞬間がある。多くの俳優が「演じること」によって役の存在感をアピールしようと格闘する中で、彼はむしろ真逆のベクトルで攻めてくる。無駄な身振りや大げさな表情変化を徹底的に削ぎ落とし、ただ空間の中に身体を置く。そのシンプル極まりないアプローチが、結果として観客の不安や期待を極限まで膨らませるのだ。
言葉を飲み込む瞬間の喉の動き、ふっと視線を外す数ミリの角度。そうした微細な身体表現だけで、映画の空気感そのものを一変させてしまう。日本映画のリアリズム表現は新たな段階に入ったが、その最前線に立っているのは紛れもなく彼だ。説明的なセリフに頼らないシネマの醍醐味を、その全身で体現している。