世間で囁かれる「交際が長すぎると結婚できない」という言説は、決して根拠のない都市伝説ではありません。家族社会学および行動経済学の観点から観察すると、関係が長期化するほど結婚を阻害する心理的障壁が強固になる構造が存在します。
まず挙げられるのが、同棲期間と結婚率の相関です。同棲を開始して最初の1〜2年は共同生活の新鮮さや家計の効率化が結婚への弾みになりますが、同棲生活が3年を超えると「事実上の夫婦関係」が完成してしまいます。法的責任を負わず、親族付き合いの義務も発生しないまま、独身の自由度と家庭生活の利便性だけを享受できる環境は、とりわけ長期交際における男性心理に対して強烈な現状維持バイアスをもたらします。男性側からすれば「わざわざ多額の費用と法的手続きを伴う結婚をする実質的なメリット」を見出しにくくなるのです。
さらに神経科学的な視点を加えると、恋愛初期に分泌されるドーパミンやフェニルエチルアミンといった情熱的興奮物質の分泌は、交際開始から2〜3年で枯渇します。その後はオキシトシンを中心とする親愛や安心感の関係へと移行しますが、10年という歳月はこの安心感を「肉親・家族への無条件の甘え」へと変質させます。異性としての魅力や緊張感が薄れ、「男女」ではなく「同居人や兄弟」のようになってしまうことこそが、長すぎた春の結末を決定づける心理的トラップです。