純粋なCMキャッチコピーである「ミルキーはママの味」が、なぜ半世紀以上を経てホラー都市伝説の格好の標的となったのか。この現象の背景には、深層心理学や広告社会学の観点から非常に興味深い構造が存在します。
第一に挙げられるのが、心理学者ジークムント・フロイトが提唱した「不気味なもの(Das Unheimliche)」の概念です。人間は、本来最も親しみ深く安全であるはずのもの(家庭、母性、無垢な子ども)の中に、わずかな違和感や異質な文脈が入り込んだ瞬間に、強烈な恐怖と嫌悪感を覚えます。「母親の愛情=優しい甘さ」という絶対的な安心の象徴を、「母を食べる」というタブー(カニバリズム)へ180度反転させることで、精神的なショックバリューが最大化される仕組みです。
第二に、母子関係のアンビバレンス(両価性)です。家族社会学において議論される「母娘の共依存関係」や過剰な母性への心理的プレッシャーは、昭和・平成・令和と時代が下るにつれてリアリティを帯びてきました。絶対的な愛の押し付けに対する無意識の反発や恐怖心が、ノスタルジックなCMソングの甘美なメロディと衝突し、ネットユーザーの間でダークパロディとして消費されやすかった土壌が指摘できます。
三木鶏郎らが構築したCMソングの旋律は、脳の聴覚野に直接刻み込まれるほど完成度が高く強力です。その強力な親和性があるからこそ、一度植え付けられたダークなイメージのギャップが、人々の認知の中で消えにくい強烈なフックとなって残り続けているのです。