こうした科学的アプローチは、日本のトップシェフたちが長年にわたり身体感覚で培ってきた哲学とも見事に合致する。
料理研究家の土井善晴氏は、常々「肉に触りすぎるな、理屈を理解して素材を清めよ」と説いてきた。ドリップを洗い流すのではなく、清潔な布や紙で吸い取り、肉自体の持つ自然な水分バランスを整えるという教えは、余計な調味料でごまかさない日本料理の純度そのものである。
一方、フランス料理の重鎮である三國清三シェフの手法には、西洋の知恵が凝縮されている。三國シェフが動画や厨房で繰り返し強調するのは、フライパンに肉を入れる前の「徹底した表面乾燥」と、強火ではなく肉の温度を段階的に上げていく火入れの技法だ。表面に水分が残っていれば、肉は焼けるのではなく「茹でられて」しまい、温度が100度で停滞する。結果として臭気化合物が脂の中に溶け残ってしまうのだ。乾いた表面に一気に高温を当てることで、臭みを香ばしいメイラード香へと転換させる。東西の巨匠のアプローチは、調理科学のレンズを通すと同じ真実を指し示している。