日本の自家焙煎のパイオニアであり「カフェ・バッハ」の創業者として知られる田口護は、生豆のハンドピックから焙煎、抽出に至るまで、豆の生命を極限まで引き出す真摯な姿勢を半世紀以上にわたって説き続けた。良質な豆を適切に選び、端正に焼き上げられたコーヒーは、その一滴が落ち切った後ですら品格を失わない。田口が築き上げた珈琲への厳格な眼差しは、抽出後の出がらしを単なるゴミとして無残に扱うことへの違和感を、静かに私たちへ問いかけているかのようだ。
スペシャルティコーヒーの深遠な潮流を捉えたドキュメンタリー映画『A Film About Coffee』では、ホンジュラスやルワンダの農園で過酷な手作業に従事する生産者たちの姿が克明に描かれている。赤く熟したチェリーが一粒ずつ手摘みされ、海を越え、バリスタの手によってカップへと注がれる。その長い旅路の果てに残る粉を、消臭剤としてもう一度使い切る行為は、過酷な大地と生産者へのささやかな、だが確かな敬意の表明でもあるのだ。