ナスの果肉は無数の微細な空気を含んだ海綿状組織でできている。切り方を誤れば、加熱中に周囲の油をごっそりと吸い上げるスポンジと化してしまう。この難題を物理的に解決する決定打が「扇切り」と「隠し包丁」の組み合わせだ。
扇切りとは、ヘタを残したまま縦に数本の切れ目を等間隔に入れ、手で優しく押し広げて扇状にする技法を指す。断面が空気に触れる面積が増えるため、油に投入した瞬間に果肉内部の水分が一気に水蒸気となって外へ抜ける。蒸気が激しく噴き出す力によって油の侵入が防がれ、衣は驚くほど軽やかに仕上がる。
さらに外せないのが、皮の表面に細かく格子状や斜めの筋を入れる隠し包丁だ。ナスの皮は厚く熱を通しにくいが、わずか1ミリの浅い切れ目を入れるだけで熱伝導率が飛躍的に跳ね上がる。短時間で均一に火が通るため、皮のパツッとした硬さが消え、トロリとした舌触りとサクサクの衣の見事なコントラストが生まれる。