館内に入ってまず圧倒されるのが、地下3階に広がる「システィーナ・ホール」です。バチカンのシスティーナ礼拝堂をほぼ原寸大(幅約20m、奥行き約40m、天井高約16m)で立体再現した「環境展示」は、大塚国際美術館の象徴的存在として知られています。この空間が一躍脚光を浴びたのは、徳島出身のシンガーソングライター・米津玄師さんが『NHK紅白歌合戦』で「Lemon」を歌唱した生中継でした。無数の蝋燭が揺らめく幻想的な映像は国内外で大反響を呼び、放送後には聖地巡礼を目的とした来館者が急増した経緯があります。現地バチカンでは厳重な撮影禁止と静寂が求められますが、ここでは細部のフレスコ画表現を間近で観察し、記念撮影まで行える自由度が鑑賞者の心を捉えています。
屋外へ一歩足を踏み出すと、印象派の巨匠クロード・モネの傑作を再現した「モネの大睡蓮」が待ち受けます。フランス・パリのオランジュリー美術館にある楕円形の展示室とは異なり、鳴門の自然光と外気に包まれた吹き抜けの池の周囲に作品が配されています。初夏から秋にかけては本物の睡蓮が池一面に花を咲かせ、絵画と自然が一体化する唯一無二の景観を作り出します。併設された「カフェ・ド・ジヴェルニー」では、睡蓮をモチーフにした特製デザートや軽食を味わいながら名画の余韻に浸ることが可能です。
さらに見逃せないのが、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」です。イタリア・ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院にある原本は経年劣化と幾多の修復を経ていますが、大塚国際美術館では「修復前」と「修復後」の2作が同じ部屋の向かい合う壁面に原寸大で再現されています。1999年に完了した20世紀の大修復によって、かつて覆い隠されていた鮮やかな色彩やキリストの足元の描写がどう蘇ったのか、左右を見比べるだけで一目瞭然に理解できる展示構成は、世界中のどの美術館でも体験できない知的好奇心の極みと言えます。
オランダ絵画の至宝であるヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」も、地下2階のフェルメール・ギャラリーで絶大な人気を誇ります。原本が所蔵されるマウリッツハイス美術館では連日長蛇の列ができる名作ですが、ここではわずか数十センチの距離まで近づき、ターバンのウルトラマリンブルーの輝きや唇のハイライト、柔らかな視線を独り占めするように鑑賞できます。