庄司屋の真骨頂といえば、杉の木箱に豪快に盛り付けられた「山形板そば」だ。提供されるのは、蕎麦粉十割に対してつなぎの一割を加えた黄金比の「といちそば(十一そば)」。太打ちでありながら驚くほど滑らかで、噛み締めるごとに穀物本来の野趣あふれる甘みが爆発する。玄そばの殻ごと挽き込む田舎蕎麦の力強さと、洗練された喉越しが同居する奇跡的なバランスだ。
この板そばと双璧をなす名物が、漆黒のつゆに脂が輝く秘伝の「鴨汁」である。創業以来継ぎ足されてきたかえしに、厳選された合鴨の旨みとじっくり焼き目をつけた千住葱の甘みが溶け合っている。熱々の鴨汁に冷水でキリリと締めた手打ち蕎麦をくぐらせると、濃厚な鴨のコクが麺の香りと絡み合い、飲むように胃袋へ吸い込まれていく。山形の厳しい冬に生まれた温もりと知恵が、この一杯の汁に凝縮されている。