「土に囲まれて暮らすなど、湿っぽくて息苦しいのではないか」「煙が充満して目も開けられないのではないか」。現代人の感覚ではそう思われがちですが、各地の博物館や大学研究機関(登呂遺跡や各地の考古学研究所)で行われた復元竪穴住居での長期宿泊・温湿度測定実験のデータは、意外な実態を証明しています。
実験現場の記録によると、真冬の深夜、外気温がマイナス5度まで冷え込んだ際でも、中央の炉にわずかな熾火(おきび)を残しておくだけで、住居内の床面付近は13〜16度前後の安定した暖かさを維持しました。地中の温度に加えて、昼間に蓄えられた地面の熱、そして分厚い茅葺き(かやぶき)屋根の断熱効果が完璧に連動した結果です。
さらに注目すべきは、竪穴住居の中央に鎮座する「炉の役割」です。炉は単に煮炊きをし、体を温める道具にとどまりません。
復元住居で火を焚くと、立ち上る煙は屋根裏の空間に滞留し、分厚い茅の層を通ってゆっくりと外へ抜けていきます。この過程で、屋根の内部全体が自然に燻蒸(くんじょう)されます。木材の防腐処理や防カビ、茅に巣食う害虫の駆除が、日々の調理や暖房と同時に自動的に完了する仕組みでした。煙で燻された茅葺き屋根は耐用年数が飛躍的に伸び、雨漏りを防ぐ撥水効果まで獲得します。
気になる煙害についても、実験参加者の手記や観察記録から巧妙な空気の流れが確認されています。炉の熱によって中心部で上昇気流が発生し、煙は頭上高くへと引き上げられます。床面から高さ50〜70センチメートル程度の空間には外からの新鮮な空気が薄く流れ込むため、床に座って生活する古代人の姿勢であれば、煙に巻かれることなく快適に呼吸ができる層構造が自然に形成されていたのです。