なすの漬物を仕込む際、最も多くの人が悩まされるのが「仕上がりの変色」です。買ってきたばかりの鮮やかな紺紫色が、漬け込みの過程でくすんだ茶褐色や黒色に変わってしまう現象には、明確な科学的理由が存在します。
なすの皮に含まれる紫色の正体は、アントシアニン系ポリフェノールの一種であるナスニンです。このナスニンは水溶性で熱や酸化に弱く、果肉に含まれるポリフェノールオキシダーゼ(酸化酵素)と空気が接触することで急速に変色します。さらに、調味液中の酸や塩分によって細胞壁が破壊されると色素が外へ溶け出し、鮮やかさが損なわれてしまいます。
この色落ちを劇的に防ぐ決定打となるのが焼きミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)です。焼きミョウバンに含まれるアルミニウムイオンは、ナスニンと結合して強固な「キレート錯体」を形成します。この化学結合により色素分子が安定化し、空気に触れても酸化されず、息をのむような美しい紺紫色がキープされる仕組みです。
焼きミョウバンを使用する際の基本使用量は、なすの重量に対して0.2〜0.5%が適量です。これ以上投入すると特有の収斂味(渋み・えぐみ)が際立ってしまうため注意が必要です。もし手元にミョウバンがない場合は、南部鉄器の「鉄玉子」や清潔な錆び釘を漬け樽に投入することで、鉄イオンがアルミニウムと同様に色素を安定させる役割を果たします。