地震の前触れとして語られる民間伝承や異常現象の総称を「宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)」と呼びます。「地震雲」や「井戸水の濁り」「動物の異常行動」、そして「赤い月」もその代表格として語られてきました。
しかし、プレートテクトニクスと地球物理学の観点から、月光の色と断層の歪みエネルギーの蓄積・解放には物理的な接点がありません。地下数十キロメートルの岩盤が破壊されるプロセスが、上空数百キロの大気透過率を選択的に変えることは不可能です。
一方で、天文学的な月と地震の関係において、唯一学術的な議論の俎上に載るのが「月の潮汐力(起潮力)」です。月と太陽が一直線上に並ぶ新月や満月の時期(大潮期)には、地球に対する引力が最大化します。2016年に東京大学の井出哲教授らの研究チームが英科学誌『Nature Geoscience』に発表した論文では、過去のマグニチュード(M)5.5以上の巨大地震(2004年スマトラ島沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震など)において、潮汐応力が高い時期に断層の最終的な破壊が進展しやすい傾向があることが統計的に示されました。
しかし、研究グループ自身が明言している通り、潮汐力はあくまで断層破壊の「最後の一押し」を与える可能性の1つに過ぎず、潮汐力が強い日に必ず巨大地震が起きるわけではありません。何より重要なのは、潮汐力が最大化する満月や皆既月食のタイミングと、地上から見える月が物理的に赤く見える光学現象の間に因果関係は一切ないという事実です。