ネット上の情報空間には、天文学の用語や海外の文化が歪曲して伝わり、地震への恐怖と混ざり合ってしまったケースも多々見られます。その筆頭が、毎年6月に話題となるストロベリームーンと地震の迷信です。
「ストロベリームーン」という名称を聞くと、多くの人が「月がイチゴのように真っ赤に染まる恐ろしい現象」を想起しがちです。しかし実際の由来は、北米の先住民族(ネイティブ・アメリカン)が季節の指標として、6月の満月を「野イチゴの収穫期を告げる月」と呼んでいた暦の呼び名に過ぎません。
北半球の6月は太陽が高く昇るため、満月の軌道は1年の中で最も低空を通ります。結果として前述のレイリー散乱により、地平線近くでわずかに琥珀色や赤みを帯びて見えることはありますが、それは毎年の季節運行に伴う規則的な自然現象です。これが日本のオカルト系まとめサイトなどで「血のように赤いストロベリームーンは大地震の前兆」とセンセーショナルに書き立てられ、根拠のない不安を煽る温床となってきました。
また、赤い月のスピリチュアルな意味や赤い月は不吉とされる理由の原点を辿ると、人類の神話や宗教的終末論に行き着きます。新約聖書の『ヨハネの黙示録』第6章には「太陽は毛織の粗布のように黒くなり、月は全体が血のようになった」という終末の描写があり、古代メソポタミアのバビロニア占星術でも月食は王の死や国家の破滅を告げる凶兆とされていました。
照明設備が存在しなかった古代や中世において、静謐な夜空を照らす唯一の光である月が突如として血の色に染まる光景は、人智を超えた恐怖そのものでした。現代の私たちが赤い月を見て抱く得体の知れない不安は、数千年にわたって人類の集合的無意識に刻み込まれてきた「災因論(不条理な災厄に意味や理由を求めようとする心理)」の名残であると解釈できます。
【プロの結論】情報に振り回される人と科学的防災ができる人の決定的な違い
災害報道や情報リテラシーの観点から導き出される重要な教訓は、「迷信を信じてパニックに陥るエネルギーを、現実的な生存戦略へと変換できるかどうか」という点に尽きます。
ネット上の不穏な噂に対して、自分がどのようなスタンスを取るべきか。その判断基準を整理しました。
- 【不安を遮断すべき人(情報断捨離が推奨されるタイプ)】:「赤い月が出た」というSNS投稿を見るたびに動悸がしたり、オカルト系予言アカウントの投稿を何時間もスクロールして日常生活に支障をきたしてしまう人。このような場合は、SNSの関連キーワードをミュートし、気象庁や自治体の公式防災情報のみをプッシュ通知で受け取る設定に変更することが賢明です。感情の共振から距離を置くことが最優先の自衛となります。
- 【科学的防災へ昇華できる人(健全な危機管理ができるタイプ)】:赤い月を見て「不気味だな」と感じた感情を、冷静な「防災点検のきっかけ」として活用できる人。「月が赤いから地震が来る」と盲信するのではなく、「そういえば非常用持ち出し袋の飲料水は期限切れになっていないか」「寝室の家具の転倒防止器具は緩んでいないか」と、現実の物理的対策に意識をシフトできる人は、災害発生時の生存確率を確実に高めることができます。