入れ墨・タトゥーを巡る日本の法的解釈において、近代司法史上最大の節目となったのが彫師医師法違反事件と最高裁無罪判決の真相です。
事件の発端は2015年、大阪府吹田市でタトゥースタジオを経営していた彫師・増田太輝氏が、「医師免許を持たずに客にタトゥーを施した」として、医師法第17条(無免許医業の禁止)違反の容疑で略式起訴されたことに始まります。検察側は「針で皮膚に色素を注入する行為は保健衛生上の危害を生じる恐れがあり、医行為に当たる」と主張しました。
一審の大阪地裁(2017年)は有罪判決を下したものの、二審の大阪高裁(2018年)は逆転無罪を言い渡します。そして2020年9月16日、最高裁判所第2小法廷(草野耕一裁判長)は検察側の上告を棄却し、増田氏の無罪が確定しました。
最高裁判決は、医師法が定める「医行為」の定義について、「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と厳格に限定しました。その上で、タトゥー施術について以下のように判示しました。
「タトゥー施術は美術的な装飾を目的とする行為であり、医療関連性を欠く。タトゥーが歴史的に社会通念上、医師によって行われてきた事実もなく、医師の独占業務と解することは実態に合わない」
この歴史的判決により、彫師という職業の違法性は否定され、表現の自由と職業選択の自由が司法によって担保されました。しかし、最高裁は同時に「タトゥー施術に伴う衛生上の危険性を放置してよいわけではなく、法規制の立法措置が望まれる」と言及しました。判決から年月が経過した現在も彫師の国家資格制度や安全衛生基準を定めた新法は制定されておらず、業界団体による自主基準での衛生管理が続いているのが構造的な課題です。