「愛犬が自分の抜けた歯をそのまま食べてしまった」というパニックに近い相談は、診察室でも日常茶飯事です。しかし結論から言えば、犬が抜けた乳歯を飲み込んだ時の危険性は極めて低く、基本的には経過観察で問題ありません。野生下での食性を見ても、犬の強酸性の胃液は骨やカルシウムを分解・溶解する能力を備えており、小さな乳歯であれば胃内で溶けるか、消化されずにそのまま便と一緒に数日以内に安全に排出されます。
ただし、喉に引っかかって激しく咳き込む、呼吸が苦しそうである、あるいは嘔吐を繰り返すといった異変が見られる場合は、物理的な気道・食道閉塞の危険があるため即座に救急対応が必要です。
さらに、この生え変わり期に多くの飼い主を悩ませるのが「口臭の急激な悪化」です。それまで無臭に近かった子犬の息が、突如として生臭い、あるいは鉄が錆びたようなツンとした臭いに変わることがあります。
この歯の生え変わり時期の口臭悪化の真相は、主に2つの要因によって引き起こされます。1つ目は、乳歯が抜け落ちる際の「微小出血に伴う血液(ヘモグロビン)の鉄分臭」です。2つ目は、ぐらついた乳歯と生えかけの永久歯の隙間に唾液やフードかすが停滞し、細菌が一時的に繁殖することで生じる「萌出性歯肉炎(ほうしゅつせいしにくえん)」に起因する臭気です。これらは生え変わりが完了し、永久歯が定着すれば自然と沈静化していく生理的現象ですが、悪臭があまりに長期間続く場合は歯肉の化膿を疑う必要があります。