日本国内において、荼枳尼天は「お稲荷さん」と完全に同一視されるケースが多々あります。しかし、信仰の構造を専門的に解剖すると、神道系の稲荷神と仏教系の荼枳尼天は、出自も教理も明確に異なる別個の存在です。
一般的に全国の稲荷神社(総本宮は京都の伏見稲荷大社)で祀られているのは、日本神話に登場する食物・穀物の神である宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)です。こちらは純粋な神道系の神であり、農業の豊作から転じて商売繁盛の神として親しまれてきました。
一方、愛知県の豊川稲荷(正式名称:妙厳寺)やその別院に祀られているのは、曹洞宗の寺院仏教における鎮守府であり、その正体は豊川吒枳尼真天(とよかわだきにしんてん)です。中世の神仏習合期において、荼枳尼天が「白い狐に跨がり、宝剣と宝珠、稲穂を担ぐ天女」の姿で描かれたことから、白狐を使者とする稲荷信仰と融合し、一般に「豊川稲荷」の通称で浸透しました。