水道管の中で一体何が起きているのか。その物理的背景にあるのが水撃作用のメカニズムです。蛇口を開いているとき、家庭用の給水管(口径13mm〜20mm程度)の中を水は秒速1〜2メートルほどの勢いで流れています。水には質量(重さ)があり、流れている最中は極めて大きな「運動エネルギー」を持っています。ところが、バルブを急速に閉鎖すると、行き場を失った水が閉じた弁の直前で激突し、圧縮された水の体積が元の状態へ戻ろうとする強烈な反発力によって、局所的な異常高圧波が発生します。
日本水道協会の技術資料や流体力学の解析データによると、バルブが急激に閉じた際に発生する圧力波の伝播速度は水中で毎秒約1,000メートルから1,400メートル(音速に匹敵するスピード)に達します。この超高速の圧力波が配管内部を行き来し、曲がり角(エルボ部分)や支持金具、機器の接続部に凄まじい衝撃力として衝突します。これが壁の内部で鉄パイプを金属バットで殴りつけたような水道管の異音「ドン」の正体です。
専門的には、ウォーターハンマーは発生プロセスの違いによって主に次の2種類に分類されます。
1つ目は、一般家庭の生活空間で圧倒的に多く見られる「急閉ウォーターハンマー(正圧現象)」です。手動の水栓や電子制御弁が急激に閉じることで、上流側の水圧が瞬間的に跳ね上がる現象を指します。通常、一般家庭の水道管にかかる動水圧は0.15〜0.3MPa(メガパスカル)程度に設計されていますが、急閉時の衝撃ピーク圧は瞬間的に1.5MPa〜2.0MPa以上に達することが実験でも確認されています。これは耐圧設計された硬質ポリ塩化ビニル管(VP管)や架橋ポリエチレン管であっても、継手部や固定部が長期間耐えられるレベルの負荷ではありません。
2つ目は、高低差のある配管やマンションの加圧給水ポンプ周辺で発生する「水柱分離ウォーターハンマー(負圧現象)」です。ポンプが急停止したり急激な圧力変動が起きたりした際、水の慣性力によって下流側の水だけが先へ進み、ポンプ直後や配管の頂上付近が一時的な真空状態(負圧)になります。その後、行き場を失って押し戻された水塊同士が超高速で再衝突し、正圧時をはるかに凌駕する致命的な衝撃波を生み出します。プラントや大型ビルだけでなく、給水設備を備えた中高層マンションの上層階でも構造的に警戒すべき事象です。