「榴」という漢字を調べると、果物とは対極にある「手榴弾(しゅりゅうだん)」や「榴弾砲(りゅうだんほう)」といった軍事兵器の熟語が必ず登場します。「なぜ殺傷兵器に植物の漢字が使われているのか?」という違和感を抱く読者は非常に多いはずです。
この疑問の真相は、日本とヨーロッパの言語史が交差した幕末から明治期の軍事近代化に隠されています。手榴弾を英語では「grenade(グレネード)」と呼びますが、この単語の語源はフランス語の「grenade」、さらに遡ると「種子が多い」を意味するラテン語の「granatum」、すなわち「ザクロ」そのものを意味しています。
初期の手榴弾は球形の鉄殻に火薬を詰め、導火線に点火して投擲する構造でした。爆発した瞬間に鉄の破片が四方八方へ飛び散る様が、「熟して割れた石榴から赤い粒が弾け出る様子」と酷似していたため、西洋で「ザクロ弾」と呼ばれたのです。明治時代、陸軍が西洋の兵器体系や軍事教範を日本語に翻訳する際、原語の比喩表現を極めて忠実に再現して「手榴弾」「榴弾」という訳語を造語しました。東西の文化が「形状と飛び散る種」という視覚的共通点で合致した、翻訳史における傑作の一つです。