「ロンドンはいつも雨が降っていて、人々は傘を手放さない」という言説は、世界中で信じられている典型的なパブリックイメージです。しかし、気象統計データを詳細に検証すると、この定説は驚くべきギャップを露呈します。
気象庁などの観測データによると、ロンドンの年間降水量は約600mm前後に過ぎません。これは東京の年間降水量(約1,500〜1,600mm)の「半分以下」という極めて少ない数値です。パリやベルリンも同様に年間500〜600mm台にとどまります。世界的な基準で見れば、西ヨーロッパの主要都市は決して多雨地帯ではありません。
では、なぜ「雨の街」という印象がこれほど強烈に定着したのでしょうか。現地在住の特派員や留学生の生活観察記録、現地の気象動態を追うと、そのカラクリが浮き彫りになります。
その実態は「雨量」ではなく「降水日数と日照時間の少なさ」にあります。西岸海洋性気候の雨は、日本の台風やゲリラ豪雨のように短時間で激しく降るものではありません。偏西風が運ぶ雲から、微細な霧雨(drizzle)が一日中ダラダラと降り続きます。現地の人々が傘を差さずにフード付きのコートやバブアーのオイルドジャケットで歩くのは、雨粒が小さく傘を広げるほどでもないからです。
さらに冬季の西欧は、緯度の高さゆえに午後4時前には日が沈み、どんよりとした鉛色の雲が何週間も空を覆い尽くします。年間降水量は少なくとも「青空が見えない日数」が圧倒的に多いため、人々の心理に湿潤で薄暗い印象が深く刻み込まれるのです。