健康診断の心電図で「左軸偏位」と指摘された際、最も多くの人が直面する疑問が「このまま左軸偏位を放置して大丈夫なのか」という点です。結論から言えば、過去の健診から長期にわたって指摘されており、かつ心臓超音波(心エコー)検査等で異常が確認されていない場合は、過度に神経質になる必要はありません。
生命に別条がない生理的要因の筆頭が左軸偏位の加齢による変化です。年齢を重ねると血管の弾力性が低下して血圧が上がりやすくなるだけでなく、脊椎の変化や内臓下垂、肺の形状変化などによって心臓の位置が徐々に横向きへとシフトしていきます。また、肥満体型の人やお腹周りに脂肪が蓄積している人は、内臓脂肪によって横隔膜が上へと押し上げられ、心臓が水平方向に寝てしまうため、電気軸が物理的に左へと引っ張られます。妊娠中の女性にも同様の軸変位が珍しくありません。
一方で、絶対に見過ごしてはならないのが「心臓の筋肉や伝導路に障害が起きている病的なケース」です。特に警戒すべきは左軸偏位と高血圧の影響によって生じる左軸偏位に伴う左室肥大です。持続的な高血圧に晒された左心室は、高い圧力に抗して全身に血液を送り出そうとするため、筋トレをした腕のように筋肉の壁が分厚くなります。左室の筋容積が増大すると発生する起電力も巨大化し、電気ベクトルが強力に左上方へと引っ張られる結果となります。
さらに、心室内に電気を届ける左脚(さきゃく)と呼ばれる経路の前側が断線する左脚前枝ブロックと左軸偏位の合併も重大なチェックポイントです。前枝がブロックされると電気は後枝から迂回して左室前壁へと遅れて伝わるため、心電図上では著しい左軸偏位(-45度から-90度程度)として描出されます。虚血性心疾患(狭心症や過去の無症候性心筋梗塞)や心筋症が背景に潜んでいる可能性も排除できません。
見極めの鍵を握るのは左軸偏位の危険度と自覚症状の有無です。以下のような兆候が一つでも該当する場合、放置は禁物であり、深刻な左軸偏位と心疾患のリスクを強く疑う必要があります。
- 階段や坂道を上った際に、以前と比べて明らかに強い息切れや胸の圧迫感、締めつけ感が生じる
- 安静時や夜間、横になった際に胸の中央部から肩・首にかけて放散する重苦しさや違和感がある
- 日常生活の中で脈が急激に飛ぶ、急に脈拍が速くなる、あるいは目の前が暗くなるようなふらつき・失神を経験した
- 血圧測定で収縮期血圧(上)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下)が90mmHg以上の高血圧状態が慢性化している