ドイツの社会学者ウーリッヒ・ベックは、現代社会を「リスク社会」と定義し、かつて家族や共同体、国家が引き受けていた生活上のリスクが急激に個人へ転嫁されている現象を告発した。社会学的な知見が示す通り、企業が終身雇用を放棄し、社会保障の手厚い保護が削ぎ落とされるなかで、個人の生活不安はかつてないほど高まっている。
病気、失業、介護、老後といった人生の不確定要素に対して、かつてのセーフティネットは十分に機能していない。結果として、予期せぬ不幸に見舞われた際にも「リスク管理が甘かった」という一言で処理される。個人の努力では防ぎようのない巨額の社会的リスクを、生身の個人がたった一人で背負わされているのが現代の構図だ。