三島由紀夫『サド侯爵夫人』結末の真相|なぜ妻ルネは釈放時に拒絶したのか

三島由紀夫『サド侯爵夫人』結末の真相|なぜ妻ルネは釈放時に拒絶したのか

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三島由紀夫が仕掛けた極めて高度な劇的構成、それは「題名にある主役・サド侯爵を舞台上に一度も登場させず、彼を取り巻く6人の女性の会話劇だけで全3幕を完結させる」という徹底したロジックです。登場する女性たちは、それぞれ当時のフランス社会の階層や道徳的観念を象徴するアレゴリー(寓意)として厳密に配役されています。

登場人物詳細・象徴する概念一般的な劇中での立ち位置編集部の見解・評価ルネ
(サド侯爵夫人)【貞淑・愛の至高性】
サドの正妻。夫の異常な奇行を知りつつも盲目的に庇い続ける。母と対立し、夫のために全てを犠牲にする悲劇のヒロイン。受動的な被害者ではなく、自らの純潔によって「悪」を完成させようとした共犯者。モントルイユ夫人
(ルネの実母)【法・社会秩序・世間体】
冷徹な法服貴族の母。一族の名誉を守るため娘婿を投獄に追い込む。娘を支配しようとする厳格で冷酷な「毒親」的存在。現実社会の権力機構そのもの。彼女の法と道徳への執着がサドの悪徳を逆説的に際立たせる。アンヌ
(ルネの妹)【無邪気な官能・肉欲】
義兄サドと不倫関係を持ち、イタリアへ逃避行を共にする。姉を裏切り、欲望のままに生きる奔放な小悪魔。罪の意識すら持たない純粋な官能性。観念的なルネと鮮やかな対比をなす肉体の象徴。サン・フォン夫人
(放蕩貴族)【背徳・肉体的な悪】
肉欲と悪魔主義に溺れ、サドの乱交パーティにも共鳴する女怪。モントルイユ夫人と激しく舌戦を繰り広げるアンモラルな貴族。悪を肉体で実践した結果、革命の暴徒に惨殺される運命を辿る「滅びの美学」。シミアーヌ男爵夫人
(修道女のような友人)【キリスト教的信仰・神】
敬虔な信仰に生き、神の摂理と許しを説く調停者。争いを仲裁し、祈りを捧げる善良な宗教者。一見善意に見える信仰が、時に現実の悲惨を直視しない欺瞞として機能する両義性を持つ。シャルロット
(モントルイユ家の家政婦)【民衆・常識・革命の力】
貴族社会の頽廃を外側から観察し、淡々と現実を伝える。連絡係・給仕として場面転換を担う脇役。やがて旧体制を押し流すフランス人民の縮図。彼女の報告が時代の地殻変動を知らせる。

相関図を紐解くと、中心軸にあるのは「ルネ vs モントルイユ夫人」という母娘の権力闘争です。世間体や社会的地位を至上命題とする母は、サドの奇行(アルクイユ事件やマルセイユ事件での売春婦への暴力・毒薬騒乱)によって家名が汚されることを恐れ、国家権力(国王の封印状)を利用して娘婿を監獄へ幽閉します。これに対しルネは、母の敷いた「正常な道徳」への反逆として、夫への狂信的な献身を貫く道を選びました。この二人の間に、妹アンヌの肉体、サン・フォンの悪徳、シミアーヌの信仰が複雑に絡み合い、台詞の応酬によってサド侯爵という一個の怪物の輪郭が鮮明に浮かび上がっていきます。

伊藤 翔太
著者

伊藤 翔太

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。