身だけでなくぎっしり詰まった卵が魅力の子持ちカレイの煮付けレシピでは、卵塊の中まで均一に火を通す時間と、薄い身が乾燥過熱される時間のギャップが最大の難関です。卵の中心まで火が入る前に火を止めると中は生臭い半生になり、かといって加熱を引き伸ばすと皮周辺の身がパサパサの繊維屑と化してしまいます。
このジレンマを打破するプロの小技が、「卵の断面中央への隠し包丁」です。卵袋の皮を傷つけない程度に、分厚い卵の盛り上がり部分に薄く切り込みを入れておくと、沸騰した煮汁が卵の芯付近までダイレクトに流入します。火入れ時間は通常の切り身より2〜3分長めの12分程度とし、火を止めた後で落とし蓋をしたまま3分蒸らすことで、身のジューシーさを損なわずに卵の芯までふくよかな火通しが実現します。
また、特売で入手しやすい冷凍カレイの煮付けのコツは、「凍ったまま鍋に入れない」ことと「ドリップの完全排除」です。冷凍庫から出したカレイは冷蔵室で半日かけて緩慢解凍し、表面に浮き出た解凍液(ドリップ)をペーパーで徹底的に吸い取ります。このドリップに生臭みの大部分が凝縮されているためです。その後、少量の酒と塩を全体に振って5分置き、再度水気を拭き取ってから霜降り処理に進んでください。
さらに、味と香りに劇的な奥行きを加えるのがカレイの煮付けの付け合わせにごぼうを添える手法です。ごぼうに含まれるポリフェノールや根菜特有の土の香りは、魚の揮発性臭気と結びついてマスキングする作用を持っています。4〜5cmの長さに切って縦半分に割り、包丁の背で軽く叩いたごぼうをカレイと同時にフライパンの隙間に投入します。カレイのエキスを吸ったごぼうは極上の副菜となり、煮汁全体にも料亭特有の上品なコクが立ち込めます。